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静岡地方裁判所浜松支部 平成11年(わ)209号 判決 1999年12月01日

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

未決勾留日数中一二〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、平成一一年四月二五日ころ、静岡県浜松市<番地等略>五階駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において、甘言を用いて誘い出した甲野春子(当一一年。昭和五三年五月一八日生)および乙山夏子(当八年。平成三年七月一日生)に対し、同女らが満一三歳未満であることを知りながら、「ゲームボーイを買うお金をあげるから、裸の写真を撮らせて。」などと申し向け、同女らをしてその着衣を脱がせて全裸にさせたうえ、同女らの陰部等の写真を撮影し、もって一三歳未満の婦女に対しわいせつな行為をしたものである。

(証拠の標目)<省略>

(証拠の評価、ならびに情状)

[1]  証拠の評価

第一、被害者の供述の信憑性

一 まず、甲野春子はつぎのとおり供述する。

1 (被告人の風評について)

被告人は、春子の住んでいるいわゆる○○団地付近をバイクで新聞配達をしているのであるが、春子の友達やその界隈の小中学生の間では子供たちに菓子を配ったり、ゲームの話をして聞かせてくれたりはするが、女の子には近づくと腰をさわったり、手がすべった格好で胸などをさわるエッチなおじさんという風評であり、中にはキッスされた子もいるところから、春子も母親からあまり近づくなと注意されていた、

2 (被告人と会う約束からその日会うまで)

(一) 本件犯行の二週間ほど前のこと、ゲームボーイを持っていた被告人に対し、春子が「ゲームボーイいいな。」と声をかけると、被告人から「ゲームボーイを買ってあげる。」と言われ、四月の最後の日曜日に公民館の駐車場で一二時半に会う約束をしてしまった、その際、被告人から携帯電話の番号を書いた名刺を手渡された、

(二) しかし、同女はかねてから被告人がエッチな人という噂を知っていたので、車でどこかへ連れて行かれるかも知れないと少し不安になったので、車に乗らなくても近くで買い物のできる浜松駅で待ち合わせをすることを思いつき、公衆電話から被告人の携帯電話に電話して、「浜松駅で待ち合わせして。お母さんが駅の方で働いているから浜松駅まで送ってくれるから。また、四時ころにお母さんと一緒に帰るから。」と嘘をつき、「お母さんだけ行かせればいいじゃん。」といぶかる被告人に対して結局これを承諾させた、

(三) さらにまた、一人で会うと何をされるかも分からないと考えていた春子は、一週間ほど経て、友達の乙山夏子を誘い、被告人の携帯電話に電話して承諾を求めると、被告人はなかなかに承諾を渋っていたので、春子は夏子に対して妹に成り済ましてくれるよう頼んで承諾を得、被告人に電話で伝えたが、なおも被告人が渋るので、「妹も来たいって。ずる言ってる。」と告げると、被告人は、「えー、しゃべっちゃったの。何でしゃべっちゃうよ。」と少し怒った口調で言うので、今度は夏子において、「お姉ちゃんだけずるい。」と助けを出すと、やっと被告人の承諾を得た、

(四) 当日は、春子と夏子は待ち合わせをしてバスにて浜松駅に到着し、駅前地下において被告人と会った、

3 (被告人と会ってから車に乗るまで)

(一) 被告人と会ってから春子と夏子は直ちに「行こう。」とゲームボーイを買いに行こうとしたところ、被告人は、「車に財布の忘れ物をしたから。」と言って一緒に車に取りに行こうとしたが、春子と夏子は近くのベンチに腰をかけて、「うちら、ここで待ってる。」と言った、

(二) 被告人は、エスカレーターを昇っていっておいでと手招きをしたので春子と夏子はちょっと様子を見たが、少しして、「行くかー。」と言って後をつけた、被告人が財布の忘れ物をしたと言っていたので、取りに行かないとゲームボーイを買ってもらえないと思ったからである、

(三) 三人して新浜松駅の方に歩いて行くと店があり、ポケモンの指輪を売っているので、被告人が、「かわいいねー。いいよ、一個選びな。」と言うので、春子と夏子は一個づつ選び、一個三〇〇円の代金を被告人が財布から出して支払った、

(四) 付近のイトーヨーカ堂の信号機のところで、夏子が友達と会い、二言、三言会話を交わした後、××の駐車場まで来た、

(五) その駐車場は怖かったので、春子と夏子は、「ここ、お化けが出そうで嫌だ。」と言うと、被告人は、「おじさん、買ってあげるのに、一人にすんの。」と言ったので仕方なくエレベーターに乗り被告人の車が駐車している五階に行き、春子において、「早く忘れ物取って来いよ。」と言うと、被告人は助手席のドアを開けて、「いいから入んなよ。」「人が来たら変に思われるから。」と言うので、仕方なく二人は入った、

(六) 春子は何となく被告人のとなりに座るのが嫌で、夏子を通り越して向こう側に座った、

4 (車の中で)

(一) 車の中でしばらくはゲームの話やカセットの話をし、その後で被告人は、「これがほしいんだったら、あれして。」と言うので意味が分からなかった春子は、「あれってなあに。」と聞くと被告人は、「あれってあれだよ。」と言うので、さらに、「だから何。」と聞返すと、被告人は、「エッチ。」と言った、

(二) 春子は、「何でそんなことしなきゃあかんよ。話が違うじゃん。」と怒って反対側の窓を向いた、被告人はわざと夏子と話すようにして春子に聞こえるように、「何でお姉ちゃん怒っているのかねぇ。いいじゃん別に。」と言っていた、

(三) 春子と夏子は外に出て話すことにし、ドアを開けようとしたが被告人が開けてくれて二人は外に出、一〇分か一五分くらい、「ゲームが欲しいけどいくらくれるのか。」などと話し合っていた、やがて春子から被告人に、「いくらぐらいくれるの。」と問いかけた、

(四) 被告人は、「さわらしてくれたら三万円くらいあげるけど。」と言うので、春子と夏子は、「さわるのはいやだね。」と言い合うと、被告人は、「写真だけでもいいから。お願い。」と言い出した、春子と夏子は、「どうする、写真といってもずっと残るしねぇ。」と話し合ったが、気持ちが決まらずに、もう一度、「いくらくれるの。」と聞くと、

(五) 始め被告人は、一万円と言っていたが、二人が、「じゃあやめるか。」と言うと、被告人は、「じゃあ一万五〇〇〇円でいいよ。それ以上あげられないよ。」と値段を上げた、

(六) 春子と夏子はゲームボーイが欲しいという気持ちに負けて被告人に裸の写真を撮らせてやるかわりにお金をもらうことに決めて、被告人に対し、「じゃあいいよ。」とこれを承諾した、

5 (写真撮影の模様状況)

(一) 車の中でまず被告人は写真を撮る準備をし、中の席は両方とも背もたれを倒して後ろの席とつなげ、袋に入った迷彩色のビニールシートを取り出して運転席と助手席の背もたれにかけるようにし、前の方の目隠しをし、二人に対して、「後ろを見えなくしたけりゃやっていいよ。」と言うので、春子と夏子は足下のガムテープと朝刊一冊を使って後の窓に新聞を張り付けた、横は被告人がカーテンを下ろした、

(二) 春子と夏子は服を脱いだ、その間被告人には中席の足下に頭を低くして隠れてもらった、被告人に、「いいよって言ったら出てきて、途中で出てきたら怒るでね。」と言ったからである、

(三) 服を脱いで恥ずかしかったので、身体を服だけかくして一番後ろの席に座っていると、被告人は、「写真とるから早く取って。」と言うので、二人は服を脱いで裸を被告人に見せた、

(四) 被告人は、春子と夏子に対して、「モデルみたいなポーズして。ニコニコして。」と言いながら写真を何枚も撮った、カメラはポラロイドカメラで写真が出てくるところと上がオレンジ色であとは黒色であった、

(五) 写真はまず二人で並んで五枚くらい撮り、それから夏子が一〇枚くらい撮り、最後に春子が一〇枚撮った、

(六) 二人は被告人から体育座りをするように言われてそのポーズをしたが、恥ずかしくて膝を閉じていたら被告人から、「お願い、足を広げてよ。足広げたら二万円にしてあげるから。」と言われ、二人は足を広げておしっこをするところが見えるようなポーズをして被告人が写真を撮った、被告人は二人にいろいろなポーズをするように言いながら写真を撮った、春子は、被告人に裸を見られて、写真も撮られ、いやな恥ずかしい気持ちだったので、写している間あまりしゃべらなかった、最後のころになって、やばいなあ、いけないことしちゃったなあ、と思った、

(七) 写真を取り終わって、もう一度被告人に中席で頭を下げてもらって二人は服を着た、

6 (その後の行動)

(一) その後、春子と夏子は被告人と一緒に車を出てエマーソンという店に行く途中、イトーヨーカ堂付近の信号機のところで被告人は、「二万円、二万円あげるからね。」と言って春子に四万円を渡した、

(二) エマーソンにおいて春子はポケモンの赤バージョンと緑バージョン、それにコンセントを選び、夏子はピンクのゲームボーイを選び、右もらった二万円で買った、

(三) その後、三人で近くの百貨店××に電池を買いに行ったが値段が高かったので買うのを止めて、二人はしばらくして被告人と別れた。

二1 春子は、被害当時満一一歳で、その通学する小学校では学級委員に選出されるほどの利発な児童であって、友達の評判もよく、公共心と思いやりについては担当の教諭から良の評価を受けているなど、その人格からしても虚偽の供述をするとは考えられず、現に右一の各供述は具体的であり、かつ、詳細に自然になされている。

すなわち、

(一) かねてより被告人がロリータ・コンプレックスの持ち主である風評から、警戒心を持っていたのであるが、被告人よりゲームを買ってあげるとの誘いをためらいながらもその誘いに乗るという供述は、心理的にもごく自然である。車で連れ去られるのを警戒して待合い場所を買い物のすぐできる浜松駅にしたり(前掲一2(二))、一人で会う不安から友達の夏子を誘い、これを妹に見立てて、被告人をして二人で会うことに承諾させたり(前掲一2(三))、被告人と会ってからもなかなか危険な車に近づこうとしなかったり(前掲一3(一)(五))、車の中でも被告人のエッチをさせてとの切り出しにも怒って見せたり、一旦は車の外に出てみたりして警戒していたが(前掲一4(二)(三))、結局被告人の小遣い銭つり上げの誘惑に負けてしまった(前掲一4(五)(六))という心理的な流れは極めて首肯し得るものである。

(二) しかも、犯行前後の状況や犯行状況についても具体的な会話や行動を交えて極めてリアルな供述をしているのであり(前掲一5(一)ないし(七))、ことに最後の撮影の際には悪いことをしたという後悔から無口になった心情を鮮やかに描き出しているのである。

(三) なお、供述調書中に、駐車場についてエレベーターの前でしゃがみ込んだ供述部分があるが、これは当初春子ら二人の行動と記されていたのが、春子自らの供述でその行動をとったのは被告人であって、被告人が子供みたいに嫌々をして、「おじさん買ってあげるのに一人にすんの。」と訂正しているのである。

2 乙山夏子の供述は問答式で採られている。しかしながら、夏子は、明るくて活発で大人びており、春子など年上の子供とも対等に遊ぶほどであって、記憶力や供述能力に劣るところはないと考えられる。すなわち、

(一) 「春ちゃんはおじさんと会うと、ゲームボーイを買ってくれると言っていた。」、「行くのが心配だから、いっしょについて来て」、「春ちゃんは公民館の駐車場でおじさんの車に乗ると言っていたが、あとでバスで浜松駅に行って会うことになった」などと供述し、春子についていっしょに会うこととしたくだりは自然であって、春子の供述と符合するものである。

(二)「春ちゃんは私の妹も連れていっていい、と電話でおじさんに言った。」「わたしもおじさんに、おねえちゃんだけ、ずるい、と言った。」と春子と歩調を合わせて被告人を承諾させていることも極く自然である。

(三) 駐車場に行く途中で仲良しの丙川秋子と会ったり、一個三〇〇円の指輪を買ってもらったくだりもまったく春子の供述と符合している(前掲一3(三)(四))。

(四) また、車の中で撮影の準備をする行動も具体的であって春子の供述と一致し(前掲一5(一))、その後の服を脱いでポーズをして撮影された模様状況も春子の供述と符合するのである(前掲一5(二)ないし(七))。

三 なお、本件は平成一一年五月一五日ころ夏子において仲良しの丙川秋子に打ち明けたことから、秋子がその父親に話し、これが母親の丙川雪子の耳に入り、これより夏子の母親の乙山冬子に伝わり、さらには春子の母親の甲野花子に伝聞されて発覚したものである(証拠の標目一2および3、二2および3、三1および2)。

第二、被告人の供述の信憑性

一 被告人は、事件当日事件現場において春子や夏子を自己所有の車に乗せたことおよび二人がゲームボーイ等を購入することについて同行したことはこれを認めている(検察官請求証拠等関係カード乙2ないし8)。

二1 まず、被告人は、四月二五日は無理矢理に町に呼び出されて買い物に付き合わされただけと弁解する。

すなわち、

(一) 被告人から春子に話しかけたことはなく、春子の方から話しかけてきてアメをもらっていた。

(二) 突然春子から電話がかかってきて、「同じゲームを買いたいが、いっしょに買いに行って欲しい。」というので、エマーソンという店を教えてあげたが、しつこくいっしょに行って欲しいと言うので、仕方なく安全な場所である公民館で待ち合わせをすることにした、

(三) 公民館は安全な場所であるのに町中に待合い場所を変えてきた。春子は母も妹も来るというので、新聞購読者の拡張にもなると思い、仕方なく承諾した。

というのである。

しかしながら、どこにでも売っているゲームを買うのに、わざわざ春子の方から被告人に積極的に誘いをかける必要はないはずであり、携帯電話番号をメモした名刺を被告人が殊更に手渡していることは(証拠の標目一2)、無理矢理の誘いに被告人が仕方なく乗ったとは到底いうことはできず、むしろ被告人において積極的に春子を誘ったことを意味するものである。

また、公民館は安全な場所であるというけれども、当初の被告人の約束は春子一人と会う約束であったことを考えれば、車でどこかへ連れ去られる懸念を春子が持っていたことの方が自然であって、その警戒心から春子が夏子を誘い、しかも人通りが多く、買い物に便利な浜松駅を選び直したことは少女ながら賢明な気持ちであったといわざるを得ない。

さらに、母も妹も来るという被告人の弁解は、春子の供述のどこにも出ては来ず、むしろたかだかゲームを買いに母や妹が同行する必要性は乏しい。

2 事件当日も、被告人は、

(一) 被告人は春子や夏子にゲームボーイはどこでも売っているし、イトーヨーカ堂で買えば駐車場の無料チケットももらえるからと言ってこれを勧め、イトーヨーカ堂に向かって歩き、

(二) 途中一個三〇〇円のポケモンの指輪を二人に買ってあげたが、

(三) その後身体の具合が悪くなったので、二人に車の駐車場所を教えて二人が迷い子にならないように車の所在を教えた後、車の中で休んだ、

と弁解している。

しかしながら、すでに被告人は○○駐車場に車を駐車しているのであるから、イトーヨーカ堂の無料チケットは必要ないはずであるし、

ポケモンの指輪を自己の財布から買ってあげたことについては、春子より「財布を忘れたから車に取りに行くと春子らを誘っているのに、財布を出した。」と嘘を見破られている。

さらに、一方では春子たちを迷い子にならないようにと心配しながら、その付近に不案内な春子達に車の所在を教えたということは、どのように教えたのであろうか。のみならず、春子達と会ってから駐車してある車に誘導するまでは被告人が主導していた旨の前記春子の供述やこれを補強する夏子の供述(前記第一項一3(一)ないし(六))に照らして被告人の弁解は到底措信し難いのである。

3 さらに、被告人は、車の中で寝ていると春子と夏子は被告人を起こしに来た。

(一) 暫くして、春子は、ゲーム買ってと言ってきた、断るとキスしてあげるからとか胸をさわらしてあげるとかいうので、趣味は持っていないと断ると、

(二) 春子は、うちのお兄ちゃんなら喜ぶのに、と言うので被告人が驚いて聞くと、勉強のために一万円あげるからセックスをやらせて欲しいと言われていると言うので、今度は、夏子に聞くと、公園で痴漢に会ったということである、

と弁解する。

しかしながら、被告人がロリータ・コンプレックスと言う異常性癖を有することは後記[2]欄第二項認定のとおりであって、そのような趣味はないどころではなく、右(二)の点も前記春子の供述やこれを補強する夏子の供述(前記第一項4(一)ないし(六)、5(一)ないし(七))に照らせば、春子がそのように性的にませた少女であることは一切なく、これは被告人の全くの作り話という他はない。

4 さらに、被告人は、ゲームボーイを買うための四万円の大金をあげたことはない。彼女たちは自分の財布から二万円を出して買っていた、

と弁解する。

しかしながら、春子や夏子の家庭では、それぞれにそのような大金を小遣いとして渡した事実がないことは、証拠の標目一2および3、二2および3を検討すれば明かであって、被告人の弁解は到底措信することができない。

第三、ポラロイドカメラおよび写真の不存在について

本件は犯行から被告人の逮捕に至るまで約五〇日を経過しているところ、夏子が仲良しの丙川秋子にこっそり打ち明けたことから本件犯行が春子や夏子の友達らの周辺である程度の噂になっていることから、これを知った少女の一人が被告人本人に、「夏子ちゃん、裸の写真を撮られたんだって。」と告げていることから、被告人が犯行の発覚を知って証拠を隠蔽したと考えられるのである。

しかも、右の噂がある父兄の耳に入ったことから、これが夏子の母親の耳に入り、ついで春子の母親に伝えられ、春子と夏子は初めてその母親に対してことの仔細を打ち明けたという経過なのであって、春子と夏子自らが被告人をして陥れ処断させるために虚偽の事実を虚構したというのではなく、前記第一項一および二の春子や夏子の供述が具体的であり、かつ、詳細であり、自然の流れに沿っていることからしても犯罪事実の認定としてはこれで充分というべく、ポラロイドカメラおよび写真の不存在については右認定を阻却しない。

[2]  被告人の性格

第一、一 被告人が使用している被告人方屋根裏部屋から被告人の妻より任意提出を受けて領置された段ボール等には、数十冊のわいせつ雑誌、十数本のわいせつビデオテープやCD―R、数十枚の少女の写真が発見された(証拠の標目八1および2)。

二1 右わいせつビデオテープ、「ロリータ白書」「ロリータ危ないおじさんP2」等と題した一〇本で、その内容は、中学生風の女児が学生服姿で男性と性行為をしているものや、屋外において小学生風の少女がしゃがみ込んで放尿しているものや、室内において中学生風の女児三名が全裸となっているなどロリータ・コンプレックスを象徴するものである(証拠の標目八2)。

2 右CD―Rについては、(一) その一つには併せて七四一〇枚の児童ポルノ画像ファイルが内蔵されており、その内容は、幼児や少女が陰部を露出してしゃがみ込んだものなどが含まれており、(二) 他のものには併せて一二〇二二枚のファイルが内蔵されており、その内容は、幼児や少女が全裸になって特に陰部を意識して露出させた内容や異性と性行為をしている内容などとなっており、(三) さらにもうひとつは、併せて九一五二枚のファイルが内蔵されており、その内容は中学生風の女子が陰茎をフェラチオしているものや性行為をしているものなどであり、(四) さらにまたもうひとつは、約六六〇〇枚のファイルが内蔵されており、中学生風の女子が全裸になって性行為をしている場面であり、(五) さらには、併せて七四三八枚のファイルが内蔵されているCD―Rには、全裸の少女の陰部に性具が挿入されている場面などであり、(六) さらにもうひとつは、七四八三枚のファイルが内蔵されており、中学生風の少女の性行為の場面などである(証拠の標目一〇2)。

三 被告人の妻より任意提出を受けた少女の写真については、いずれも被告人の近隣の中学生ないし小学生を対象として写されたものであって、その内容は少女たちをしゃがみ込ませ下着をあらわに露出させて撮影したものであったから(証拠の標目九1)、司法官憲において捜査の結果少女たちを特定して(証拠標目九2)、いずれもしゃがみ込むように被告人より要求されて写された旨の少女たちの供述が得られているのである(証拠の標目九3)。

第二、右多数の卑わいな写真やビデオテープなどの存在は、被告人の異常な性的嗜好であるロリータ・コンプレックスを証明して余りあるものであり、被告人は、仮想現実(ヴァーチャルリアリティ)な世界に飽きたらず、現実の世界に自己の性的欲求を拡大させ、下着を付けたままの少女たちの淫猥な写真を撮ることを手始めとして、なおもこれが欲求が高じて、さらに下着をとらせて全裸で卑わいな写真を撮るということに発展したものというべく、このことは心理学的に充分に説明が可能なのである。

第三、なお、弁護人は、捜査当局は、恣意的に児童ポルノ関係の資料を収集した、と弁解するようである。

しかしながら、犯罪とは構成要件に該当する違法有責な行為であるところ、強制わいせつ罪については、刑法第一七六条後段に該当する要件が捜査の目標となる。したがって、捜査とは、数多くある被告人の物の中から右目標に照らして関連性や必要性、重要性の程度から直接間接の証拠物を収集する目的合理的な行動であるといえる。

本件の捜査は、春子や夏子の母親の告訴から始まったものであり、告訴状の内容からそれが未成年者に対する強制わいせつ事案であることは一見して明かであるから、捜査は児童ポルノ関係に向けられること、ならびにこれに関連する近隣の少女たちの下着姿に眼をやることは当然である。

[3]  性の問題

性(セックス)に関するタブーが崩れたことは、あるいは神秘な性に関する様々の社会的意味づけを取り崩し、性にまつわる男尊女卑などのいわれない差別を取り払い、ありのままの性の事実を人々が知ったということは、ある意味では社会の進歩であったかも知れない。

しかしながら、性には快感が伴うものであるから、これを利用した輓近の性に関する拝金主義や家庭生活を破壊する不倫等、性に関する無節操は眼を覆うばかりである。

人の行う行動はすべて人生に意味のあることがらであり、このことを深く考える傾向を人々が忘れてきているようである。

性は、すべての生き物にとっては、本来本能として種の保存繁栄という役割を担い、それは人間にとってはさらに社会の基底的集団である家庭(それは人間が必然的に依存するゲマインシャフトの典型である)の維持形成にとってはなくてはならない機能なのである。すなわち、人がある目的で一面的につきあう利益社会(ゲゼルシャフト)と異なり、典型的には夫婦と未成年の子によって構成される家庭なるものは、人々が家族として全人格的に全面的につきあうものであり、そこには深い愛情と信頼とによって永続的に生活が維持形成されることが望まれるのであり、殊に性は夫婦の絆を培い愛情を形成維持させるに必要な役割を演じ、このことが子供の情緒的な安定した成長に役立ち、つぎの世代に完熟した成人に仕立てて社会人として送り出す機能を有しているからには、決して性というものは安売りをすべき性質のものではないのである。

性をおろそかに扱う風潮は、ひいては家庭の持つ社会の基底的集団であるという重要な意義を考慮しない世代を産み、これがつぎの世代にともすれば伝搬する畏れさえあるのである。

殊に、年端もいかない幼い少女たちにとって、性はこのような人生についての生涯を左右する大事な機能であることを深く弁えるには未だ達していないことに思いを巡らせ、幼少期のこのような体験が春子や夏子の将来の性格形成や人間関係に大きな影響を及ぼしかねないことを考えると、ただ自己の性的欲望の満足のみに眼を走らせ、他人の人権を配慮しない被告人の責任はまことに重大であるといわなければならない。

(法令の適用)

被告人の判示二人の一三歳未満の婦女に対する所為はいずれも刑法第一七六条後段に該当するところ、右は一個の行為にして二個の罪名に触れる場合であるから、同法第五四条第一項前段、第一〇条により犯情の重い甲野春子に対する罪の刑で処断することとし、右刑期の範囲内で前記諸事情を総合して考慮し、被告人を懲役二年六月に処すこととし、同法第二一条を適用して、未決勾留日数中一二〇日を右刑に算入することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 宗 哲朗)

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